運命を結ぶ物語

木曜日にはココアを」(青山美智子)

12色の話のオムニバス。連想した言葉はスモールワールド。ハブ。ちょっとスピリチュアルなところも。

次の話につながっていく。人と人との関係が広がって、そして収束する。支えあう人や物や時間を媒介に互いを思いやる気持ちが通じ合っているのがほのぼのとして、気持ちが和む。

一つ一つの話には登場人物は少ない。ストーリーもそれほど複雑なものではない。この話は、あの話につながっているというのはよくわかる。

ところが読み進めていくうちにこの人はどの人だったかと、12話に出てくる人物は結構多くて関係も複雑。途中でメモでもしようかと思いもしているうちに、どんどん読み進めてしまって、というか、読まされてしまって、人物相関図が頭の中で描き切れなくなってしまったのは、記憶力の不足が露見したかたち。

マスターの役割は大きくて、直接間接に登場人物に絡んでくるけれども、その正体はあまり判然としない。

情熱的ではあっても落ち着いて控えめでそしてちょっと不器用で、じっくりと時間をかけて醸成される恋愛模様。

誤解のしこりを溶かして、ほぐしながら深まっていく友情。

丁寧な手仕事のクラフトやサービス、世間の評価を超えて心の赴くままに表現されるアート、忘れられることのない約束。

人の生きている場面をさりげなく差しはさみながら物語は人と人をつなげていく。

読み終えたらまた初めから読み返してみたくなる循環する物語。

殺伐としたミステリー、サイコパスの主人公が登場するサスペンスを立て続けに読んでいたあとということもあるのかもしれないけれど、ほのぼのとしたやさしい気持ちにさせてくれる小説。心の清涼剤としてよく効いた気がする。

もしもこの本が誰かの手に渡った時には、受け取った人とどんな運命で結ばれていくだろうかなどと、似合わぬロマンチックなことを考えてしまった。

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