社会と心理の両面から

「告白」(湊かなえ)

中学1年生の生徒が殺人事件を引き起こす。殺されたのはその生徒の担任教諭の一人娘。担任教諭は未婚のシングルマザー。父親はHIVに感染した熱血教師。殺人に至る経緯と、それに誘発されたさらに2つの殺人事件。それぞれの当事者のモノローグの形で語られる。

背景には少年法によって凶悪な犯罪でも加害者は罰せられないという問題が一つの前提として存在する。そのため復讐の実行が個人の手にゆだねられて実行される。緻密に計算されてのことなのか、偶然が偶然を呼んでのことなのかいずれにしても復讐は成就することとなる。刑事罰を科さないことによって却って加害者を心理的に追い詰めていき、結果として第2第3の殺人、さらに第4の殺人へと悲劇は拡大していく。

一世を風靡した学園ドラマへのシニカルな批判、戯画化が差し込まれている。

母子密着をもたらす家庭環境、その背景にある労働環境、能力主義がもたらす差別意識と大衆蔑視の逆説、疾病への過剰な不安と異常な潔癖主義の蔓延、学校教員の過重な労働環境、モンスターペアレント、過剰な自意識と未熟の不安との思春期のアンバランス。

事件の背景にある様々な社会現象がそれぞれの告白の中に読み取れたという感想。

コメント

タイトルとURLをコピーしました